乾燥と保湿の正しい考え方
― 糖尿病・高齢者の足を守るために ―
はじめに
「かゆみがある」「粉をふく」「ひび割れている」
こうした皮膚の乾燥は、よくある症状と思われがちですが、糖尿病のある方や高齢者にとっては、重大なトラブルの入口になることがあります。
なぜ糖尿病や高齢者は皮膚が乾燥しやすいのか
神経障害と乾燥の深い関係
糖尿病では、糖尿病の罹患年数が長くなってくると、末梢神経障害(まっしょうしんけいしょうがい)が起こることがあります。
これは、手足の感覚や自律神経(汗を出す働きなど)が低下する状態です。
自律神経が障害されると、
- 汗が出にくくなる
- 皮脂の分泌が減る
結果として、皮膚のうるおいを保つ力が低下し、乾燥しやすくなります。
高齢になると起こる皮膚の変化
加齢により、
- 皮膚が薄くなる
- 水分保持力が低下する
- 新しい皮膚が作られるスピードが遅くなる
このため、高齢者の皮膚は乾燥しやすく、傷つきやすい状態になります。
乾燥が引き起こすリスクとは
ひび割れ・亀裂から始まるトラブル乾燥した皮膚は、弾力が失われる
- かかとのひび割れ
- 足趾(足の指)の付け根の亀裂
が起こりやすくなります。
これらは小さな傷に見えても、細菌や真菌(カビ)が侵入する入口になります。
私の訪問のお客さんの中でも「毎年、冬になると踵が割れて、靴下に血がつくことがあるんだよ」とお話しされた方もいました。

感染しやすい状態になる理由
糖尿病のある方は、
- 血流が悪くなりやすい
- 免疫機能が低下しやすい
という特徴があります。
そのため、
乾燥 → 皮膚バリア破綻 → 感染 → 治りにくい
という悪循環に陥りやすいのです。
皮膚の再生サイクルを知る
皮膚は約28日で生まれ変わる
健康な皮膚は、
約28日(ターンオーバー)で新しく生まれ変わります。
しかし、
- 高齢者
- 糖尿病のある方
では、このサイクルが40~60日以上に延びることがあります。
👇つまり、
「今日塗ったら明日よくなる」ものではない
という理解がとても大切です。
正しい保湿の考え方
保湿剤は「役割」で選ぶ ― エモリエントとモイスチャライザー ―
保湿剤には、大きく分けて2つの役割があります。
水分が逃げないように“ふた”をする
エモリエント(Emollient)
エモリエントとは、
皮膚に浸透せず、表面を覆うことで水分の蒸発を防ぐ保護剤です。
特徴
- 皮膚の表面を覆う
- バリア機能を補う
- 刺激が少ない
代表例
- ワセリン
- プロペト(白色ワセリン)
- 亜鉛華軟膏
👉 角質除去後・ひび割れがある皮膚には特に重要です。
皮膚に浸透して水分をたくわえる
モイスチャライザー(Moisturizer)
モイスチャライザーは、
皮膚の中に水分を引き寄せ、保持する成分を含む保湿剤です。
特徴
- 皮膚に浸透する
- 水分保持力を高める
- 乾燥予防に向いている
代表例
- ヘパリン類似物質製剤
- 尿素製剤
👉 皮膚に傷がない場合の“予防的保湿に向いています。
剤形による違いを知る― どんな形の保湿剤を使うか ―
保湿剤は、成分だけでなく剤形(形状)によっても使い心地や効果が異なります。
軟膏
- 皮膚保護作用・柔軟作用が高い
- 刺激が少ない
- べたつきやすく、洗い流しにくい
👉 角質除去後・乾燥が強い・高齢者向き
クリーム
- べたつきが少なく使用感がよい
- 水で洗い流せる
- 保護力は軟膏とローションの中間
👉 日常的な保湿ケアに使いやすい
ローション
- のびがよく、さっぱり
- 広範囲に塗りやすい
- 乾燥が軽度な場合向き
👉 予防目的・夏場・広範囲ケアに
フォーム(泡)
- 展延性が高い
- ベタつかず、素早く塗れる
- 広い範囲に向いている
👉 介護現場・セルフケアが難しい方に便利
スプレー
- 手が届きにくい場所に使いやすい
- 広範囲に使用可能
- 使用量が分かりにくい
👉 補助的に使用するのがおすすめ
何を・どれくらい・どの頻度で塗る?
① 何を塗る?
- 角質除去後・ひび割れあり
→ エモリエント(ワセリンなど)を優先 - 傷がなく乾燥予防
→ モイスチャライザー(ヘパリン類似物質など)
※ 尿素製剤は傷がある場合は避けることが重要です。
② どれくらい塗る?
目安は
「皮膚に自然なツヤが出て、ティッシュが軽く貼りつく程度」。
- 少なすぎる → 効果が出にくい
- 多すぎる → 蒸れ・皮膚トラブルの原因
③ どの頻度で塗る?
基本は
1日1回以上。
特におすすめなのは
👉 入浴後5分以内(皮膚に水分が残っているうち)
乾燥が強い場合は
👉 朝・夜の2回も有効です。
足の保湿で必ず伝えたい注意点
- 足の指の間は塗りすぎない
- 赤み・しみる・かゆみが出たら中止
- 「毎日観察」とセットで行う
保湿は、
塗るケアであり、同時に“観察の時間でもあります。
足を触れることの効果
保湿ケアや足のマッサージは、
皮膚を守るための技術的なケアであると同時に、
人と人がつながる時間でもあります。
足にやさしくふれることで、
- 安心感が生まれる
- 信頼関係が育まれる
- 「大切にされている」という感覚が伝わる
そうした変化を、私は何度も現場で見てきました。
足をマッサージしていると、心がほどける瞬間がある
足の保湿やマッサージをしていると、
普段はあまり話をしない方が、
ぽつりぽつりと話し始めることがあります。
- 家族にも言えなかった不安
- 痛みやつらさを、ずっと我慢していたこと
- 「迷惑をかけたくない」という思い
中には、
涙を流しながら話してくださる方もいます。
技術よりも先に、大切にしたいこと
正しい保湿剤の選び方、
正しい量や頻度は、とても重要です。
でも、その前に大切なのは、
「この時間を、安心できる時間にすること」
だと、私は考えています。
足のお悩みのある方のそばにいる方へ
爪が切れない・・・足が痛い・・・靴が合わない・・
その悩みを聞いてあげたら、きっと、お互いの信頼につながります


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